・分布 :本州(中国地方)、四国(愛媛)、九州、朝鮮半島、中国(東北部)
・生育地:山地や丘陵地の日当たりの良い草地や林床。
・花期 :4月~5月上旬
・草丈(葉):20~30cm
・名前の由来:エヒメアヤメ(愛媛菖蒲)は愛媛県に産するアヤメ(菖蒲)の意味である。アヤメ(菖蒲)は花びら(花被片)に網目の模様があり、これが文目(アヤメ)となったのに由来。
命名に関しては牧野富太郎も関係しているが、古くからの別名、誰故草(タレユエソウ)も有名である。
・特徴 : 多年草。地下深く(約10cm)に細長い赤花色の匍匐性の根茎をもつ。葉は花茎と同時にでて、細く線状で、幅 2~10mm、長さは開花前は10cmほどであるが、花後は成長して30cmほどになる。
花茎は高さ5~15cmで、先に直径5cmほどの花を1個つける。花は青紫色で外花被片は狭倒卵形で、中央から基部にかけて黄色の筋が入る。内花被片はへら形で直立し、外花被片より小さい。
花柱分枝の先は2深裂する。蒴果は球形で径8㎜ほどである。
生育地は世羅台地上の玄武岩残丘の麓の標高約400mのアカマツが混じるコナラやクヌギからなる落葉広葉樹の林床に生育していた。緩斜面の日当たりの
良い場所で、高茎植物との競合には負けるので、草刈りや野焼きなどの手入れが必要である。早春の林が大きく新葉を展開する前に咲く、林床の背丈の低い青紫色の
大きな花は可憐の形容が最適である。
保護地の個体。分布の中心が中国東北部や朝鮮半島であり、分布の中心から見て南限に当たる広島県三原市沼田西町のこの場所はエヒメアヤメ自生南限地帯の保護地として1935年(昭和10年)12月24日に
国の天然記念物に指定されている。また、大陸系依存植物のひとつでもあり、その貴重さから天然記念物に指定後、地元住民により下刈りやシカの食害の防止などの保護活動が行われ、現在に至っている。
長期にわたる保護活動は大変だったと思われるが、この花のもつ魅力も継続の要因の一つのように推測される。
前画像の近接画像。保護されている自生地は丘陵の西向きの谷あいの標高約70mほどササを主体とした緩斜面に点在している。標高は100m以下であり、
自生地の中では最も標高の低い自生地であり、暖かく開花時期も早い。保護されてから90年ほど経過しているが、群生ではないが、点在する密度は高い。
標高約800mほどの草地に自生する個体。この自生地は早春に山焼きが行われ草地が維持されている。山焼きの後の黒く焦げた焼け残りの跡が見られる。
前画像を上方から見た花の画像。周辺はササやススキが見られる。地中深くに根茎があるため野焼きが行われても、恩恵を受けるだけであるがこの自生地では
多数の花を咲かせる大株は見られず、高地であるため寒く、花茎だけで葉はまだ地上に出ていない。
花は開花後、3日ほどで閉じる。新葉の基部には前年度の枯れた葉が確認できる。前画像の野焼きをする自生地では前年度の枯れた葉は見られない。
基部に模様があり外に開く外花被片3個と小さくて直立する3個の内花被片の組み合わせがおもしろい。外花被片の基部に平たい花弁状の花柱(雌しべ)があり、先が2裂している。
内花被片を中心にした花の画像で、外花被片の基部から雌しべが出ているのがわかる。
花柱の上部は3個ある外花被片の基部に沿って3分枝に分かれ、各分枝は平たい花弁上で裏側の先に柱頭がある。雄しべは花柱分枝の下側に沿ってついている。ふつう、雄しべは外花被片と花柱分枝に
挟まれて隠れ見えない。
ハイゴケの中から花茎を出したエヒメアヤメ。エヒメアヤメの種子は褐色で直径3㎜ほどで、表面にエライヲソームとよばれるアリ誘引物質が付着しているため、アリに好まれ遠くまで散布される。アリ散布植物あるいは
動物散布植物である。
雑感:広島の中央部の里山を散策しているときに、日当たりの良い林内で開花している自生の大株のエヒメアヤメに出会い、愛らしさにニンマリした思い出がある。広島県の県中央のエリアには
何ヶ所か保護地もあり、生息密度の高い地域であるが、住民の高齢化により里山の手入れがおろそかになり、樹木の成長や高茎雑草が繁茂で日当たりが悪くなり保護地以外では見かけなくなった。