・分布 :北海道(セナミスミレ:石狩地方以南、日高地方以南)、本州(日本海側は鳥取県以北、太平洋側は青森県まで)
・生育地:海岸の砂浜や砂丘、隣接する防風林のクロマツ林の林床や林縁。
・花期 :3月下旬~5月上旬
・草丈:5~10cm(花茎)
・名前の由来 :イソスミレ(磯菫)は海岸の岩や石の多い場所が磯であるが、ここでは砂浜や砂丘なども含めて磯とし、そこに生育するスミレ(菫)という意味で命名された。
イソスミレのシノニムであるセナミスミレは牧野富太郎が新潟県の瀬波(セナミ)海岸で発見したことによる。
・特徴:多年草。タチツボスミレと同じ有茎種。地下茎は強風による砂の移動に対応して太く長く垂直に伸び肥厚して木化する。茎は数本叢生し林内では40cmになる。根出葉の葉身の表面は濃緑色厚く光沢があり、裏面は淡緑色、
心形、先端は短くとがり基部は心形。葉縁は波状の鋸歯があり、葉の両面とも無毛、表面に巻く。葉柄は長さ3~5cm、托葉は狭卵形、羽状に浅裂する。花は濃紫色~淡紫色、径2~2.5cm。
萼片は広披針形で先端は尖る。花弁は全体に丸く、側弁の基部は無毛、唇弁の距は太くて短く白色である。花柱は筒形、花柱上部は先端に向かって太くなり柱頭は下向きに突き出す。
砂丘の細かい砂の中に太いくて丈夫な地下茎を下ろし、濃緑色の根出葉の上に多数の紫色の花をつけた個体。この場所はとくに風が強いためか昨年の枯れた茎葉は砂に埋もれて見えない。
日本海側の海岸にあるイソスミレの生育地の砂丘は上流の山地から河川により運ばれた土砂、海岸沿いに流れる海流、季節風を含めた強風により発達する。イソスミレは海岸の汀線から約50m以上離れた
砂浜や砂丘の細かい砂上に多くが群生、あるいは点在しているが、砂丘に続く防風林のクロマツ林やそれに混生するハリエンジュ、ネムノキ、トベラ、ハイネズなどの林床にも生育している。
咲き始めは根出葉がほとんどであるが、この個体の大きさは約30cmもあり大きい。開花している花の数は開花時期の降雨などの気象条件にも影響を受けるようである。
周辺に昨年の茎葉が枯れて茶色になり一部が砂に埋もれている。
海岸の汀腺から約100mほどの砂丘の緩斜面に群生している。この場所は常に海からの強風にさらされ砂の移動が激しいため、株元にあるかれた昨年度の茎葉が砂に埋もれて
まったく見えない。周辺にはカワラヨモギ、ハマボウフウ、ウンランなどの海浜植物がみられるが、スミレ科の植物がこんな厳しい環境下に適応していることに進化の妙を感じる。
砂丘は海岸の汀線から約100mほど緩い傾斜で高くなりやがて海抜約15m、幅約50mの平地になりその先は砂の急斜面になり防風林に接している。
この個体はこの砂の急傾斜地に生育しており、風が弱く砂の移動も少ないため花も葉も瑞々しい。
花の近接画像。淡紫色の花で、花弁は円く可愛らしい。
雄しべの上部にある橙色の付属体がよく目立つ。雄しべは花弁に隠れて外からは雄しべの上部にある橙色の付属体しか見えない。雄しべは5個あり花弁内部に子房と花柱を包むようにほとんど花糸のない葯がある。
雄しべの下側の2個だけ蜜を分泌する長い距があり、唇弁の距に納まり中に蜜を溜め、訪花昆虫を呼び寄せる。
花の側面の近接画像。唇弁の距は白色で太く短い。萼片は広披針形、先端は尖る。
花色は淡紫色から濃紫色まで個体によって異なるが、濃紫色の花は上品に感じる。右方に結実したばかりの果実があり、花柱や萼片がまだ残っている。
砂丘の海抜約15mほどの防風林と接する平坦部に進出したネムノキの高さ約1mほどの小木が群生している中に生育しているイソスミレ。
ネムノキは開葉時期が遅く、マメ科植物で貧栄養の砂地にも強い植物であるが、この群生の中にイソスミレが多数、点在しているのは驚いた。この場所は平坦部の風の
強い場所であり、砂の移動も激しいためイソスミレの株元には昨年の枯れた茎葉は砂に埋もれて見えない。
クロマツ林を主体とした防風林と砂丘との林縁に生えるイソスミレ。周辺にマツの落葉や松ぼっくりもあり、風が弱いため花も葉も傷つかずきれいである。
砂丘と防風林が接する砂の急斜面に生える個体。砂丘に隠れて風が吹かず、日当たりがよいためか、開花が早く複数の結実した果実がみられる。
砂丘の砂の急傾斜地に生える個体で風の影響が少なく地上茎があるのがわかる。砂丘の風衝地の個体はこの開花時期は根出葉だけで地上茎は萼片は見えないが、この時期を過ぎれば地上茎を出すようである。
砂丘の急傾斜地に生育する個体であるが、風が弱く砂の移動も少ないため昨年の地上茎が茶褐色に枯れて株元から斜面に垂れて残っている。
いつも海からの強風にさらされている風衝地に生育する個体で、風による砂の移動が激しい中で花を咲かしているが、花弁は砂で傷つき、葉の上に砂がつもっている。
砂丘の風の比較的弱い場所に生育する個体で付近にはハマハタザオの花が咲いて、ハマボウフウの葉も見える。
大きな砂丘であるが手前に点在する濃緑色の葉の植物はイソスミレで、白い葉の植物はカワラヨモギである。汀線に近い場所のペットボトルや廃棄物などのゴミの多さが環境破壊を考えさせられる。
雑感:完全な北方系の植物ではないが、分布が日本海沿岸の雪国を中心としており、暖かい中国地方に住むものとしては図鑑やネットなどの砂丘に大群生する様子が少し神秘的でぜひ見たい植物である。
現地は近くの河川からの土砂が日本海の海流で流され海からの強風で吹き上げられてできた砂丘が予想より広大で、さらに葉を砂に半ば埋めながら過酷な環境で花を咲かしているイソスミレは感動的であった。
砂丘上の分布としては海岸線の水際に近い砂上には生育しておらず、水際から50m以上離れた場所から奥のクロマツ林の林縁までが分布域のようであった。