キイイトラッキョウ(紀伊糸辣韭)

   
 
   

都道府県別レッドデータ(2020)キイイトラッキョウ

・分布 :本州(岐阜、愛知、三重、奈良、和歌山、山口)、九州(熊本) 
・生育地:洪水時は水に浸かるような川岸の岩場で、保湿力のあり、陽の当たる明るい苔むした岩上や岩の隙間に生育している。
・花期 :10~11月
・草丈(花茎):10~30cm 

・名前の由来:イトラッキョウ(糸辣韭)は地中にラッキョウ(辣韭)を小さくしたような白い鱗茎があり、さらに葉がイト(糸)のように細く中に空洞がある中空ではないことから、イトラッキョウとなった。 キイ(紀伊)は本種が紀伊半島で発見されたことに因む。イトラッキョウの仲間で紀伊半島で発見された植物ということ。

・特徴 : 地下に長楕円形で細長い長さ2cmほどの鱗茎があり、地上に長さ10~20cm、径約1mmほどの細い葉を3~5個を出し冬は枯れる。葉は中空で、中実であるイトラッキョウとの相違点の一つである。 花をつける個体の鱗茎は直径3~5mmで太く、花茎は高さ15~30cm、花は横向きから下を向いて咲く。花被は濃い赤紫色で、外花被片と内花被片共にボート状、長さ5~6㎜、幅2.5~4㎜、子房も赤みを帯びる。 花糸は7~10㎜で花被より長く、基部に歯牙(0.3~0.5㎜の突起)がある。葯は長さ1.8㎜、花柱は長さ約7㎜。ヤマラッキョウと花や花序は似てい入るが、ヤマラッキョウは花数が多く、 花茎に葉がつくことで区別できる

全体像    (2020/11/4 愛知県 犬山市)

標準的な個体の全体像。多数の鱗茎が地下にあり、一塊の株状になり長さ20cm前後の花茎を15個ほど出している。地下の一個の鱗茎から径1㎜ほどで長さ10~20cmの細い中空の葉を3~5個出し、 花茎の先に6~12個ほどの花を散形状につけている。

花茎先端部の花の近接画像   (2020/11/4 愛知県 犬山市)

花被は濃い赤紫色で、花は横向きから下を向いて咲く。この株はまだ蕾もある咲き始めで、全体の濃い赤紫色が瑞々しく粋である。


生育環境   (2020/11/5 愛知県 犬山市)

伊勢湾にそそぐ大河の海抜30mほどの中流域の川岸の洪水時は冠水する苔むした岩場に草丈の低いイネ科植物などと共に生育している。 同じ岩場でもこの場所は日当たりがよく乾燥気味であるためか、草丈が小さく葉も短いようである。


全体像   (2020/11/5 愛知県 犬山市)

この川岸の岩場の地質はジュラ紀に起源をもつ非常にかたい岩石であるチャートでできており、河川の水による浸食や風化に耐えてきたものである。 キイイトラッキョウは洪水や氾濫時に運ばれてきた土砂がこの付近の岩場の岩上のくぼみや亀裂、岩間などに堆積し、そこにコケ類や低茎のイネ科植物などと共に 生育している。


岩間の個体 (2020/11/4 愛知県 犬山市)   

大きな岩と岩の間にある隙間に洪水で運ばれた土砂が積もりそこに鱗茎を下ろしている。表土は厚くなく表面にはコケがあり、湿気のある場所である。撮影時刻が 夕方で、赤紫色の花の色が少しくすんで見える。

イネ科植物との競合 (2020/11/5 愛知県 犬山市)    

日当たりがよく、やや湿気た表土のある岩場和は他の植物との競合がみられる。この個体は大株で元気に多数の花茎を上げ、華麗な紅紫色の花を咲かせている。 今後、洪水で繁殖力の強いイネ科植物がダメージを受けなければ、この大株の将来は危ういかも知れない。

群生  (2020/11/4 愛知県 犬山市) 

少し表土が厚い岩場で多数のキイイトラキョウの集団がみられるが、岩の縁のほうが主体で周辺はイネ科植物が繁茂している。撮影時刻が夕方で、秋の夕方の太陽光線で 全体が橙色がかっているが、これはこれで趣がある。

小さな個体  

岩上の狭いの亀裂に鱗茎を下ろし開花している草丈10cmほどの小さな個体。貧栄養で乾きやすい厳しい環境のため、花の数も6個ほどで少ない。

苔むした岩上の個体   

この川岸は頻繁に洪水の濁流にさらされるため、渓流植物の特徴を備えているようで、コケにおおわれた土壌は水に流されず、鱗茎はしっかり地中に根を張っている。

生存競争   

岩間の個体できれいな花を咲かせているが、イネ科植物などとの生存競争は厳しそうである。 

上方から見た花  (2020/11/5 愛知県 犬山市)  

多数の花茎をのばした株を上方から見た画像。花茎に濃紅紫色の花を10個ほどつけて、ほとんどの花が横向きか下を向いて咲いている。

花の近接画像  (2020/11/5 愛知県 犬山市)  

早朝の陽が射す前に撮影した近接画像で少しくすんだ紅紫色の花に見える。キイイトラキョウは雄性先熟で、雄しべの花糸が先に伸び葯が弾けて花粉を飛ばした後、雌しべが のび始め、雌しべの花柱は成熟するとほぼ雄しべと同じ長さになる。

花の名称  (2020/11/5 愛知県 犬山市)

内花被片と外花被片はともに3個ずつあり、両方ともにボート型をしており、内花被片のほうが外花被片より少し大きい。雄しべは6個で葯は花粉を放出する前はオレンジ色で、花柱は1個で紅紫色である。葉の断面は円形で中空であり、子房はくすんだ緑色で3室に分かれている。

チャートとキイイトラッキョウ  (2020/11/5 愛知県 犬山市)  

赤色を帯びた周辺の岩は非常に硬いチャートであり、キイイトラッキョウはその岩の隙間に生育している。直ぐ下方は流れてきた石で削られたできた甌穴とよんでもいい水溜りである。 キイイトラッキョウの赤紫色の花は日当たりと日陰、夕方と早朝など光線の微妙な変化により発色が異なり、肉眼で見たイメージとギャップがあり難しい。

ふつうの自生の姿  (2020/11/5 愛知県 犬山市)  

複数の株が岩の隙間に点在している。このように草丈が小さく、株状になり多数の花茎に花を咲かせた様子はヤママラッキョウには見られず、キイイトラッキョウ独特の雰囲気がある景色である。
雑感:岐阜県を流れる中流域の川岸の岩場で、濃い紅紫色の花をたくさん咲かせたキイイトラッキョウに出会えたが、周囲の風景と調和して、得も言われぬ美しさであった。 本種は湿気と乾燥を好み、さらに高茎直物との競合には負けるようで、このような生育環境は川岸の岩場でも多くなく、ほそぼそと生存するしかないようである。