・分布 :本州(栃木、群馬)
・生育地:高山の霧が発生しやすい湿った岩壁に着生。
・花期 :6~7月
・草丈:4~8cm
・特徴 :同属のムシトリスミレのほうが見る機会が多いが、本種は草体が一回り小形で、主に岩崖に自生し、花の色がやや薄く、花茎がしばしば二股に分岐する点が相違点といわれる。湿った岩崖にくっついて生える多年草で、
根があり、根ぎわより数枚の葉をロゼット状につける。葉は長さ7~15㎜、幅5~8㎜、楕円形で縁が内側に巻いてさじ状になる。葉の表面と花茎には腺毛が密生し粘液を分泌して虫を捕える。花茎はふつう1本で、しばしば下部で
二股上に分枝する。花は淡紫色で長さ10~15㎜で、花時は花と花茎は下方に曲がるが、果期には花茎が上向きに曲がり蒴果を岩に押し付ける。この動作がコウシンソウの代名詞である。
・名前の由来:最初に発見された場所が栃木県日光市の庚申山(1892m)で、1890年に三好学により発見された。この山の名前をとってコウシンソウ(庚申草)と命名された。
自生地は霧がよく立ち込めそうな冷涼な湿気のある岩崖である。典型的なコウシンソウの開花個体である。黄緑色のロゼット状の楕円形の葉は縁が内側に巻いてさじ状になり、
花茎を1本だけ伸ばし、途中で二股に分枝して、淡紫色の花を2個付けている。内側に巻いた葉の表面と花茎には腺毛が密生しているのがわかるが、食虫植物の証である。
2個の個体共に花茎が二股に分枝して淡紫色の花を2個づつ付けている。
岩崖の垂直に近い岩肌に10個体以上が密集して自生している。貧栄養の環境なのか、花茎を出せない葉だけの個体、花茎を出せても分枝せずに花が1個のみの個体、
花茎を伸ばしても花をつけていない個体、普通に花茎を分枝て2個の花をつけた個体など様々であるが、生育には厳しい環境であることがわかる。
しかし、密集して淡紫色の花を咲かせた姿は高嶺の花の如く気高さも感じる。
花は唇形で後方に長い距を出し、下唇の先端近くは黄色を帯び白毛を密につける。花冠は淡紫色であるが、距は淡黄緑色である。
同じく高山の岩場に生える朱色のエゾノヒメクラマゴケとの対比がおもしろい。
本種は普通1個の花茎が二股に分枝して2個の花をつけるが、ここでは三股に分枝して3個の花をつけている。左隣の個体と下方の個体は花茎が分枝せず花は1個である。
広いように見えるが草体が小さいので、実際は幅約30cmの矩形の範囲で、ここにもエゾノヒメクラマゴケが見られる。
開花前の蕾の個体。開花は生育場所の集団が同時に開花するようである。紫色の唇を閉じた様子が愉快である。
コウシンソウだけで、他の植物がほとんど見られない垂直に近い岩肌に生育している個体。このような厳しい環境を克服してきたのが今に繋がっている。
この生育地は足場も不安定な岩崖地であるが、一部に小面積だあるが、草付きもありそこに生育している集団である。岩壁に付着している個体に比べ他の植物との競合になるが、草体が小さい分、不利に見える。
雑感:野生植物に興味を持ったころ、日本固有の植物(1978:前川文夫)の中にコウシンソウについて触れてあり、食虫植物でさらに、果期に花茎を上方の岩肌に押し付ける動作をする奇妙な植物があることを知り、いつかは
出会いたいと願っていた。現地は確かに霧が多そうな冷涼な岩崖であり、岩肌で栄養価がなく、光合成だけでは小さな草体を維持できずに昆虫食に進化し、さらに繁殖においても花茎を上方に曲げて種子を岩肌につける工夫など
生存の厳しさを実感した。