ミノコバイモ(美濃小貝母)

 
 
   

都道府県別レッドデータ(2021) ミノコバイモ 

・分布 :本州(石川、福井、岐阜、愛知、三重、滋賀、兵庫、岡山)
・生育地:丘陵や山地の照葉樹林、落葉樹林内や林縁
・花期 :3下旬~5月
・草丈 :10~15cm

・特徴 : 地下の鱗茎は小型で白色の球形になり、2個の半球形の鱗片からなる。葉は5個あり、葉身は披針形から広線形で、長さ3~6㎝。下部では対生し、上部では3輪生する。茎は細く軟らかく、高さは10~15cmになる。(ここまで日本産バイモ属に共通する。)ミノコバイモの花は茎頂に1個つき広鐘形で6個の花被片からなる。花被片は長さ15~25㎜、長楕円形で淡黄色、暗紫色の網目模様があり、内側の中部下より1/3ほどから上に 向かう腺がある。また、花被片は中部下よりで外側に角ばって張り出す。葯はクリーム色で、赤紫色のアワコバイモとは異なり判別のポイントになる。
・名前の由来:「母貝」は地下の鱗茎が2つに分かれており、この鱗片の間から茎が出て成長することから鱗片を2枚貝に見立てて、母貝(バイモ)とよばれる。 ミノ(美濃)は最初に発見された美濃国北山村(岐阜県山県市)に由来し、バイモより草体が小さいことからコバイモと呼ばれる。

生育環境 (2024/4/17 三重県 藤原岳)

  スプリング エフェミラル(春の妖精)とよばれる春植物の仲間で、春先に花を咲かせ、夏には地上部が枯れ、 翌年の春先まで地中の鱗茎で過ごす多年草である。 この生育地は石灰岩の山の標高1000mほどの尾根部の落葉広葉樹林の林床で、樹木が葉を落としている春先はよく陽光が差し込む明るい場所であった。 この個体はコケの中から茎を伸ばし開花しているが、尾根部に吹く強風あるいは石灰岩質の土壌のためか草丈が10cm未満の個体がほとんどであった。草丈が低いため 花が全体に不釣り合いに大きく見えて可憐である。

 

コケの中の2個の開花個体 (2024/4/17 三重県 藤原岳)

 前画像の個体を斜め上から見た画像。葉は5個で、下部は対生、上部は3輪生。花は広鐘形で茎先に下向きに1個だけつける。

崖地に咲く個体 (2024/4/17 三重県 藤原岳)

 崖地の斜面に生育する個体で、花被片内部の赤褐色の網目状斑紋がよく目立つ。この画像は茎を中心に左右対称図形(シンメトリック)になっていておもしろい。

斜め上から見た個体 (2024/4/17 三重県 藤原岳)

 前画像を斜め上から見た個体であるが、見る角度によって、花の印象が大きく異なる。

 

石灰岩の岩の隙間に生育する個体 (2023/3/25 三重県 藤原岳)

 藤原岳は石灰岩の山で、現在でも環境保護区外の山体の一部が石灰岩の採掘場として活動している。この個体は尾根部より少し下った石灰岩質の白い岩の隙間に 生育している個体で、あたかも枯葉の吹き溜まりの中に生育しているように見える。

開花直前の個体 (2023/3/25 三重県 藤原岳)

 前画像と同じ石灰岩質の白い岩の隙間に生育している個体で、まだ花被片はすぼまっていて大きく開いていない。また、花被片の上部の突起状の出っ張りの黒褐色の 点がよく目立っている。

低地の個体 (2023/3/25 兵庫県 上郡町)

 低地の丘陵地の標高120mほどの緩やかな傾斜地に群生して生育する個体。藤原岳の高地(標高約1000m)に生育する個体と比べると、低地の個体の方が①草丈が大きい ②花被片の開度が小さく細長く見える ③花被片の色が白色が強いなどの違いが見られる。この場所は人里も近く、放置すれば高茎植物が繁茂するため定期的な草刈りが必要である。

高地(標高約1000m付近)に生育する個体の花の内部 (2024/4/17 三重県 藤原岳)

 花被片内部のよく目立つ赤紫色の網状斑紋は放花昆虫へのサインであるが、蜜腺と関連しているようである。クリーム色の雄しべは6個、雌しべの柱頭は子房が3室あるため3個に分かれている。

低地(標高約120m付近)に生育する個体の花の内部 (2023/3/25 兵庫県 上郡町)

 前画像の高地の個体の花に比べて、花被片内部の色が赤褐色になりその密度も低くい。花被片内側の中部下(下1/3くらいの位置)から上に向かう淡黄色の蜜腺があるが、 これはミノコバイモの特徴のひとつである。

1個の葉 (2024/4/17 三重県 藤原岳)

 コバイモの仲間は種子発芽から6~7年ほど1個の葉で成長を続け地下の鱗茎に養分を蓄え太らせる。鱗茎に花を咲かせる力が供われば茎を伸ばし5個の葉を展開し花をつける。 このコケの中の1個の葉は長さ5cmほどで数年先には花を咲かせそうである。

シカの糞とミノコバイモ (2024/4/17 三重県 藤原岳)

 シカの食害は各地で問題になっているが、藤原岳の尾根部もシカの食害で植生が大幅に変化したらしい。シカのウサギの糞はよく似ているが、シカの糞は俵型でウサギは饅頭型らしく、この画像はシカの糞である。

バイケイソウとミノコバイモ (2024/4/17 三重県 藤原岳)

 藤原岳の尾根部付近はシカが食べないバイケイソウの群落が多く見られる。ミノコバイモの開花時期はバイケイソウの芽出しの時期に当たり、ミノコバイモは日光を浴びることができるが、 バイケイソウの群落の中ではミノコバイモは見られなかった。

白色の花被片の個体(白花) (2023/3/25 兵庫県 上郡町)

 花被片外側の赤紫色の網目模様が消えて、クリーム色のみになった個体。この自生地では全体に花被片外側の赤紫色の網目模様は密度が低く薄い個体が多かった。

生育環境 (2024/4/17 三重県 藤原岳)

 標高1000mほどの落葉広葉樹林の石灰岩質の林床に生育する個体。コケが生える斜面で、ヒカゲノカズラ、ネコノメソウの仲間、ヒロハノアマナの花などが近くに見られる。

雑感:ミノコバイモとアワコバイモの花は広鐘形で、花被片外側の模様も同じで区別がつかないが、葯の色がミノコバイモがクリーム色であるのに対してアワコバイモは赤紫色であることで判断できる。 早春に天然林の林床を目を凝らしながらこの小さな花を探し、見つけたときは単純に嬉しくなる。藤原岳の尾根筋のミノコバイモの草体が5~7cmで小さいのは、草丈が高くなり目立つとシカに食べられ、結果として小さい個体のみが生き残ったと考えるのは早計であろうか。