・分布 :本州(近畿地方西部~中国地方東部)、四国(香川、高知)
・生育地:超塩基性岩などの岩混じりの日当たりの良い草地。
・花期 :7~8月
・草丈(花茎):15~75cm
・名前の由来:トサオトギリ(土佐弟切)のトサ(土佐)は最初に採取され命名された個体(タイプロカリティ)の産地が高知県(土佐)高知市一宮の超塩基性岩地であったことから、オトギリ(弟切)は、平安時代の鷹匠、晴頼が秘伝の鷹の傷薬の秘方を漏らしたことで弟を切り殺したによるもの。
・特徴 : 多年草。茎は細くてかたく、2本の稜があり、稜上に黒点が並び、単生するか、数本が株立ちになり、直立し上部で分枝する。葉は楕円形~倒卵状楕円形、長さ5~20㎜、幅2~8㎜、鈍頭
基部は円形~広いくさび形、無柄、明点が密にあり、辺縁には黒点がある。茎頂や上部の枝の先に集散状の花序をつけ、花は径15~18㎜、鮮黄色赤みを帯びた脈がある。花柄は長さ2~3㎜。萼片は5個
、不等長、三角状卵形~披針形、長さ2.5~3㎜、幅1.5㎜、明点と明線が入り、辺縁には少数の黒点がある。花弁は5個、倒卵状楕円形で先端がトモエソウのように曲がり辺縁は波状縁となり黒点がある。
雄しべは30~50個で、3束にまとまり、長さ7~11㎜、葯に黒点が入る。花柱は3個、長さ3.5~5㎜である。蒴果は卵状円錐形。
生育地は標高約260mの流紋岩質凝灰岩質の低山の日当たりの良い尾根筋の急傾斜の岩角地の草付きである。タイプロカリティの地質が蛇紋岩(超塩基性岩)であったため、蛇紋岩地固有の植物とされていたが、
その後、安山岩質、流紋岩質の地質でも自生が確認され、地質による制限はなくなった。気候的には年間降水量1200㎜以下の国内でも最も降水量の少ない瀬戸内海式気候帯に属し、
さらに日当たりがよく、水はけの良い急傾斜の岩角地であることから、乾燥には極めて強い植物であることがわかる。
株立ちした個体、最長の花茎は約50cm。茎が細く茎頂や上部の枝の先に集散状の花序をつけている。葉は対生して小さい。
単生した個体の茎頂に咲いた個体。花の径は15~18㎜、花弁は5個、倒卵状楕円形で先端がトモエソウのように曲がり辺縁は波状縁となり黒点がある。雄しべの先の葯の黒点がよくわかる。
鮮黄色の花はとてもよくひきたっている。
急傾斜の岩角地の草付きの端に生育する2個の茎をもつ株。周辺にはネズ、テリハノイバラ、ツクシハギ、ササ類、スゲ類が見られた。
前画像の近接画像。2個の茎の右側の長い個体の茎の長さは約35cm、左側の開花している個体の茎の長さは約20cmである。
前画像の近接画像。2個の茎の下部は赤褐色で対生する葉がある上部は緑色になる。
花は一日花で、開花して半日もたつと花弁はしおれ始め、いわゆる花もちはよくない。トサオトギリの特徴のひとつである花弁の縁の黒点と葯の黒点がよくわかる。
前方の2個の花は開花したばかりでみずみずしく、その後方に萼と花弁に黒点がある蕾、最奥にしおれて赤味がかった花弁の咲き終わった花が見える。咲き終わった花にはまだ雄しべが残っている。
雌しべは約30個、葯には黒点がつく。花柱は3個。萼片は5個、不等長で三角状卵形、緑色で明点と明線がいり、辺縁に黒点が点在する。
茎は細くてかたく、2本の稜があり稜上に黒点がまばらにある。葉は質がやや厚く卵状楕円形、鈍頭、基部は円形、無柄、明点が密にあり、辺縁に黒点がある。茎の上部では葉腋から枝が出る。
茎が10個をこえる大株。画像が不鮮明であるが、観察された個体の中で最も大きな株であった。乾燥が厳しいため葉が平開せず、茎に巻き付くように立っている。この個体も採取されたか、環境変化で
現在は見られず、周辺の個体も同様である。
雑感:日本のオトギリソウ属には40種ほどあるが、中でも牧野富太郎が命名したトサオトギリは野生でぜひとも会ってみたい植物であった。その機会は土佐ではなく海を隔てた播磨の低山の岩尾根の草付きであったが、
なんでわざわざこんな乾燥した場所に生育するように進化したのか、変に感心した。また、オトギリソウ属の種は区別が難しいものが多いが、トサオトギリは花の花弁の先がトモエソウの花のように曲がっていること、茎が細いこと、乾燥した急傾斜の岩角地が生育地であることなどから初見でも同定が容易であった。